~ 一つのお椀の作り手は一人ではありません ~
輪島塗の製造は分業です。一つのお椀の作り手は一人ではありません。
輪島塗は、木地(きじ)の作成から、木地固めから始まる下地、中塗り、上塗り、そして加飾をする場合は、沈金や蒔絵に至るまで、様々な制作工程があります。
それらの工程を輪島塗では分業で作られています。一つのお椀が作られる場合、お椀の木地を挽く椀木地屋さん、下地をする人、中塗りをする人、研ぐ人、上塗りをする人、あるいは呂色をする人(呂色をとる人)という具合に、多くの職人さんの手を経ます。
塗り上がったお椀に、沈金や蒔絵で加飾(かしょく)する場合は、さらに沈金師さん、蒔絵師さんが加飾を担当します。
一人の人が一生を掛けてすべての製造技術を極めることはほぼ不可能でしょうが、分業ではそれぞれの製造工程の技術を極め発展させていくことが出来ます。
こうして、輪島塗には高度に専門分業化された生産構造が背景にあり、この生産構造により「堅牢・優美」と言われる輪島塗が成り立ってきました。
『輪島塗』とは分業という生産様式と一体となって成立しているといえます。
この分業化された輪島塗の生産構造は、製造の担い手が法人であれ個人であれ変わりません。下地から上塗りまでの工程を行う法人が製造元であっても、製造現場では工程毎に分業でなされています。個人事業の場合も、例えば、上塗りをする個人事業主さんは、木地作りや下地作りは、それぞれを請け負う個人事業主の職人さんに委託することになります。
分業で生産された商品を企画し、製造を統括しているのは誰なのかというと、従来、塗師屋(ぬしや)さんが主に行ってきました。
塗師屋さんというのは、商品の企画は、① 製品の塗りを行うという輪島塗製造と、② 仕上がった製品の販売、つまり製造と販売のふたつの仕事をしています。
輪島塗は、もともと製造者がお客様に直接販売する形でしたが、その販売者が塗師屋さんでしたので、塗師屋さんが輪島塗のお客様との接点になりました。
塗師屋はお客様の要望を汲んで製品を企画し、木地作りを始め、輪島塗のいろいろな製造部分に発注し、自らは塗りの工程を受け持ち、沈金師さんや蒔絵師さんに加飾を依頼してて製品を作っていきます。
今でも大半は塗師屋さんが製品の企画・製造を行い、製品を販売するという形をとっています。
もっとも販売に関しては、現在に至り、生産者(塗師屋さん)の消費者(使い手)への直接販売だけではなくなりました。また、企画・製作についても、木地屋さん、蒔絵師さん、上塗り屋さんが企画・制作するケースはあります。ですが大枠においては今も、塗師屋さんを中心として企画され分業生産され、そして販売されるのが輪島塗産業の形になっています。